みのりの眼

ルネ・ド・カステラについて(2)

凱旋門の近く、シャンゼリゼ大通りから一本裏にあるシャンゼリゼ劇場、その内部装飾を任されたひとりにモーリス・ドニがいました。そして彼は天井画を描いたのですが、そこにはなんとピアノを弾くブランシュ・セルヴァと譜めくりをするルネ・ド・カステラが登場しています。

私は今回カステラの生誕150年にちなんだコンサートをするにあたって、いろいろ調べているうちにこのことを知ったのですが、いざこの絵を見た時に「おや?この絵には見覚えがある…」と感じました。なんてことはない、カステラの孫たちが書いたカステラの評伝の表紙にこの絵は使われていたのです。ちゃんと表紙裏のキャプションを見ていればそのこともとっくに知っていたのでしょうが。

まぁそれはともかく、モーリス・ドニとスコラ・カントルムの音楽家たちの交友についてはよく知られていますが、そうでなくともセルヴァとカステラがパリ中心の劇場の天井に描かれているというのは、当時の存在の大きさを示していると感じざるを得ません。

セルヴァはリカルド・ヴィエニスと並んで当時の重要な二大ピアニストのうちのひとりだから何をか言わんやですが、カステラも実は当時のパリの音楽家たちの中心にいたと言っても過言ではありません。というのも、前にも書いた通り、彼はさまざまなサロンやコンサートといった集まりに足繁く通ったり、スコラ・カントルムで卒業後もその秘書として働いたりすることで、当時パリにいたほとんど全ての音楽家と繋がりを持っていましたし、楽譜出版社を設立し、音楽家たちが自らの譜面を出版しやすい状況を作ったからです。

つまりカステラもまたこのシャンゼリゼ劇場の天井に描かれるに相応しい、フランス音楽への大きな貢献を果たしたのです。だからこそ、その美しく優雅な作品とともに今再び評価すべき人だと僕は確信しています。

さてひとつ謎が残っていて、それはこのヴァイオリンを弾いている女性は誰かということです。これは明らかにされていないので推測するしかないのですが、ノエラ・クジンではないかと言われています。

ノエラ・クーザン。同い年のガストン・プーレ宛に、ピアノとヴァイオリンのためのソナタを書き捧げた年にドビュッシーが書き送った手紙にも言及されてるそうです。彼はベレー帽かぶって妙に元気な彼女をみて音楽がわかるのか訝しがったそうですが、翌年彼女はバイヨンヌやポーでドビュッシーの当該ソナタを弾いたそう。またクライスラーによる擬古作風のバロック作品も鮮やかに弾いたそうです。