みのりの好きなアーティストはたくさんいますが、その中で一番好きな人と問われれば、迷うことなくコトリンゴさんを挙げます。

コトリンゴさんを知らない方のために少し説明します。
コトリンゴさんはバークレー音楽院卒業後の2006年に坂本龍一氏に見いだされたシンガーソングライターで、卓越したピアノ演奏と浮遊感あるうた声が特徴です。また作曲だけでなく編曲も学んでいますので、自分のイメージを自分だけで表現する力を持つ人です。

みのりはふとしたことからコトリンゴさんの1stアルバムをリリース直後に聴くことができましたが、そのときは今ほど心魅かれるものではありませんでした。いくつかの曲はいいなと思いましたが、あまり得意でない坂本龍一さんの匂いが感じられて、それが故にほとんど聴きこまずにいたのです。

みのりがコトリンゴさんの本当の魅力に気づいたのはそれから少し間が開いてからです。表参道のスパイラルレコーズのクリスマスイベントとして、ギターの伊藤ゴローさんとデュオで演奏するというので、伊藤ゴローさんの大ファンであるみのりはゴローさん目当て出かけていったのです。

みのりはコンサートに行くときはいつも開場時間より少し前に行くのですが、この時も同じように少し早めに会場に着きました。するとまだ二人がリハーサルをしているところでした。このときコトリンゴさんはリロイ・アンダーソンの「そりすべり」を演奏していたのですが、これを見てみのりは息を飲みました。斬新な前奏にはじまる決して聴いたことのないキーボードのパッセージ、それはとても難しいだろうけれどもそんなことを微塵も感じさせずに演奏し、さらにその上にあのふわふわしたうた声がのる。普段でもとてもきれいな人ですが、キーボードを弾いているときはさらに美しく、また鍵盤上を動く指が的確かつ流麗でそれだけでもずっと見てられるよう。まさにこのときみのりはコトリンゴさんに恋したのです。

それからは見に行けるコンサートは必ず足を運びました。また手に入る音源はすべて手に入れて聴きまくりました。すると最初スルーしていた1stアルバムもとても素晴らしい作品だということがよくわかりました。でもやっぱりコトリンゴさんが演奏しているところが見られるコンサートが一番好きです。そしてなるべく指の動きが見えるところを狙って行きます。

昨年、コトリンゴさんは「birdcore!」という本当に絶妙なタイトルのアルバムをリリースしました。みのりが歴史に残る傑作と考えているトータルアルバムの前作「ツバメ・ノベレッテ」からわずか一年。ここではこれまで発表してきた様々なスタイルの音楽の要素が感じられる楽曲が自然な流れの中で収められていて、文字通りコトリンゴさんの音楽のエッセンスが詰まった作品となっています。そしてこの作品を引っさげてコトリンゴさんは全国弾き語りツアーに出ました。その最終日、平成26年8月31日の表参道CAYでのコンサートは、コトリンゴさんにとって間違いなくエポックメイキングとなるものになったと思います。

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この日のコンサートは1日のみのバンド編成でした。ベースとドラムはおなじみの村田シゲさんと神谷洵平さん、そしてこれがミソだったのだと思いますが、彼らに加えてトイ楽器奏者として良原リエさんが加わったカルテットでした。内容はというと、とにかくアグレッシブ!音圧も今までで一番の大きさでしたし、それぞれのプレイの凄まじさといったらこれまで聴いたことのないぐらいのものでした。特にシゲさんと神谷さんは数曲演奏した後に倒れてしまうのではないかと思うくらいでした。しかし当のコトリンゴさんといえば涼しげな表情で余裕でこなしているよう。恐れ入りました。また良原さんというプレイヤーを加えたことで、演奏された楽曲にこれまでにはない広がりが生まれていたと思います。

この日のライヴのひとつのピークは「ballooning」でした。ロバート・グラスパー周辺の音楽に対するコトリンゴさんからの回答といった風情のこの曲で、良原さんもキーボードパートを担い、神谷さんの超絶プレイ、そしてコトリンゴさんのインタープレイに徹する姿は、大げさでなく鳥肌がたつものでした。この曲を中心としてライヴ全体が生演奏の醍醐味を嫌というほど感じさせてくれました。

コトリンゴさんはこの日のライヴを振り返って、アルバムの世界をライヴに反映させるという課題の解決をみたというようなことを言っていたと記憶します。確かにアルバムのある意味広がりのある世界をたった四人で作り出すどころか上回るほどのものを作り上げたことは驚嘆に値します。絶頂期のウェザー・リポートに匹敵するのではないかと思うほどです。しかしみのりはむしろライヴのダイナミクスをアルバムにもっと封じ込めてほしいと思っています。あの日のライヴを見たら誰もがコトリンゴさんの途方もなく大きな音楽世界に気づくに違いない。ライヴと録音されたものは別ものとは言えど、あのドライブ感がアルバムにもっと反映すると、コトリンゴさんの素晴らしさに気づく人がもっと増えるのではと思ったりもするのです。

ともあれ、コトリンゴさんは確かに次の段階に進んだのだと思います。盲目的に恋しているみのりはコトリンゴさんが演奏しているのを見ているだけで幸せですが、やはりどんどん先に進んで驚かせて欲しいという欲求を常に持っています。そしてそれは無理な注文ではないと思っています。だからこれからもコトリンゴさんの活動を追い続けようとみのりは考えています。