足立美術館の春季特別展に行ってきました。

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足立美術館の展示は四半期ごとに展示替えがあり、大観室、大展示室、小展示室と大きく3つに分かれます。そのうち今回は大観室は足立美術館の代名詞でもある横山大観の作品を陳列し、大展示室では「京都画壇の両雄 竹内栖鳳と橋本関雪」の特集展示、小展示室では「絵の中をさまようー日本画の登場人物になってー」と題した展示が行われていました。

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みのりの今回の大きな目的は最近やっと気になる存在となってきた橋本関雪の作品をしっかり見ることでしたが、既に見たものが多い竹内栖鳳の作品や山水画を集めた小展示室の作品も含めて、改めて足立美術館のコレクションのクオリティの高さを再認識することとなりました。

橋本関雪の作品を今回はじめてある程度まとめて見て感じたのは、やはり彼は文人的素養が現れた作品の多い人なのだなということでした。今回陳列された15作品が足立美術館のコレクションの中でどのくらいの割合を占めているのかはわかりませんが、文人画的な題材の作品が多いのではと思っていた当初の予想を裏切って、そのほとんどは主要なモチーフに動物が扱われているものばかりでした。確かに橋本関雪は動物画にも定評のある画家ではありますが、しかし今回見たものはどれも見ていると絵の中にそれぞれの世界が広がってるように感じられるものばかりで、それは文人画を見ているときと同様の心持ちにさせるものでした。

橋本関雪は竹内栖鳳の弟子でしたので、表面的な面で師を受け継いでいるところも多いです。例えばモチーフの省略の仕方などには似たところが感じられます。これについては栖鳳が次のようなことを行っています。「日本画は省筆を尚ぶが、充分に写生をして置かずに描くとどうしても筆数が多くなる。写生さえ十分にしてあれば、いるものといらぬものとの見分けがつくので、安心して不要な無駄を棄てることができる。」橋本関雪はまさにこの師の言葉を十分身に付けていたことがよくわかります。

しかし竹内栖鳳の作品の多くが対象を見事に描き、その上で感じる世界が日常的な身近なものであるのに対し、橋本関雪の作品はそこにある種の格調の高さや深遠さが感じられます。それは恐らくは動物をメインに描いてもそれだけでなく、中国の故事などとの結びつきを意識して描いていたからではないかとみのりは思いました。

9fed91f6(「幻猿図」)

実際そのように描かれた作品が「意馬心猿図」でした。意馬心猿とは仏教で、走り回る馬や騒ぎ立てる猿を抑えることができないように、煩悩や妄念のために心が乱れて落ち着かないことだそうで、この絵は見事に馬の動的な動きが描かれ、そのことで流れる時間の存在すなわちストーリーを感じさせることに成功していました。

また竹内栖鳳が描く動物は人間味が溢れているのに対し、橋本関雪の描く動物がまさに本物そのものに感じられるのも同じ理由からではないかとみのりは思います。

15(「唐犬図」)

ほかにもフランス印象派の強い影響を感じさせる絵などもありましたが、総じて今回展示された橋本関雪の作品はどれも見事なもので、時間の制限がなければどの絵の前でも長い時間を過ごしたいと思わせるものばかりでした。

みのりがこれほど橋本関雪に感じ入ることができたのは、ここ1年くらいでやっと文人画を身近に感じられるようになったことが大きな理由だと思います。そして文人画の鑑賞の肝はまさに小展示室での展示のテーマ「絵の中をさまよう」というものです。それまでなるべく客観的に絵を捉えようと考えていたのを、積極的に絵の中に入って行こうと考えを変えてから驚くほど好きな絵のヴァライティが広がりました。ですから竹内栖鳳の作品でも以前だったら魅力を全く感じなかったであろう「潮沙和暖」も今回とても感激しましたし、小展示室に陳列されていた作品も見ていてうれしくなるものが多かったです。

その中でもやはり圧巻だったのは山元春挙の「瑞祥」でした。この大きな屏風に広がる大パノラマはそれだけでもかなりの迫力ですが、実は底辺に小さく描かれた108人の人間たちの誰かに自分を投影してみるだけでその迫力はさらに大きなものとなります。そして大きく広がった湖面の高い透明度も見事に描かれていて、おそらくは中国の山間部にある理想郷へと自分のいる時間と場所がスリップしたかのように感じられます。これこそが絵を見る楽しみではないかと今のみのりは考えています。

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富岡鉄斎の「淵明藍輿図」や冨田渓仙の「蓬萊佳境図」、結城素明の「畳嶺蔵雲」をはじめとした他の陳列品も同様に感じられる素晴らしい作品ばかりで、これらを居間にかけて一日中眺めていたいなぁと思いました。

t02200465_0250052812705439803(結城素明「畳嶺蔵雲」)

というわけで、今回もはるばる島根県の安来まで出かけて行った甲斐のある展覧会でした。そして相変わらずみのりは横山大観のよさには気づくことができなかったこともここに白状しておきます。