みのりが初めて筒井百々子さんを知ったのは高校生の時、学校の帰り道にある本屋さんに新刊として彼女の短編集「リトル・コンサート」が平積みされていて(今考えても筒井百々子さんの作品を平積みしていたこの本屋さんのセンスは稀有なものだと思います)、その表紙のかわいらしい絵に心奪われたのがきっかけです。さっそく購入して読んでみると、すべての作品が音楽をモチーフにしていて、しかもさまざまなジャンルに渡っていたので、同じような趣味だったみのりにとってとても共感できるものでしたし、それぞれのお話もよかったので、みのりにとって大事な作家のひとりになりました。

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そこでいつものように手に入る限りの作品を探したのですが、幸い彼女の作品は多く出ていませんでしたのでほどなく全部揃えることができました。また名前も知らなかった漫画誌「クレッセント」に連載中ということを知りそちらも購入して読みはじめました。それが今回紹介する「ものまね鳥シンフォニー」です。

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ちなみにこれらの本はすべてその学校の帰り道にある本屋さんで購入できたのですがこの本屋さんの品揃えは他には見られない独特なもので、みのりの成長過程に多大な影響を与えました。今もこの本屋さんは存在していて当時よりも売り場面積を広げていますので、このようにお店の個性がはっきりしていれば今の時代でも生き残っていけるのだなぁと思っています。

筒井百々子さんはもともとアニメーターの方です。名作劇場「ペリーヌ物語」で作画や動画チェックなどでクレジットされています。ペリーヌ物語ももともと好きだったみのりにはとてもうれしいことでした。そういわれてみるとその絵柄は名作劇場の素朴なかわいらしさと共通する部分が感じられます。

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「ものまね鳥シンフォニー」はそのデビュー作「たんぽぽクレーター」の前日譚で、その内容はウィキペディアの記述がうまくまとまってますのでここに引用すると、「20世紀末、建設中の月面都市を舞台に、心に深い傷を負った女性と心を閉ざしたサイボーグ、耳の聞こえない子供が、出会いと音楽を通じて、本当の心を取り戻していく姿を描く」といったものです。設定はSFですが、非常に日常感覚に近く表現されていて見事です。例えばこの作品で大きなモチーフのひとつとして念動力がでてきますが、それはアニメーターと同様に人間の動きをなぞることだと説明しています。だから念動力者がその力をブラッシュアップさせるときはアニメを手本にするとよいというシーンが冒頭にでてきますが、これはアニメーターであった筒井さん独自の視点でユニークです。

筒井さんの作品に流れる現実感というのは「死」についても同様です。ほかの作品も含めて彼女の作品には「次の瞬間誰が(自分が)死んでもおかしくない」という厳しい現実認識の上に成り立っていて、それが故に他のほんわかとしただけのファンタジーとは一線を画しています。描かれる世界も年代だけとれば既に現実の世界が追い越してしまいましたが今なお現実味を帯びていて、近い将来このようなことが起こってもおかしくないと思わせます。

しかしそれで厭世的になるのではなく、なお希望が描かれるので読んでいて救われる思いがします。しかもそれは派手に提示されるのでなく、この作品の通奏低音として流れる月の光と同じくおだやかに自然と体の中にしみこむように作用します。本当に素晴らしい作品だと思います。

また音楽が大好きなみのりは、この作品でも音楽が重要なモチーフとして扱われていることがうれしいです。空気の振動でない音が重なり合って響くシンフォニーは一体どんなものなのでしょう。そんなことを想像する筒井さんの繊細な感性に作品を通じて触れることができるのはみのりにとって大きな喜びです。

この後、筒井さんはしばらく活動した後長い沈黙に入り今に至ります。まるでこの作品におけるキャロラインのように。どんどん悪い方向に進んでいく世の中に心痛めた結果ではないかと思うのはみのりだけでしょうか。でもどんな時でも希望を描いた筒井さんには何が何でも復帰して欲しいと思っています。