みのりが感じる平井千絵さんの演奏の魅力は、同じ地平に立った時に見える風景をそのまま見せてくれるような思いを与えてくれることです。この国で多くの人に注目される演奏家は、とても自分では到達しえないだろう世界を作り出し、それで聴くものを圧倒するような人が多いかと思いますが、千絵さんはそういうタイプではありません。かといって誰もが共感しうる感性というものが没個性的であるわけではありません。没個性的な演奏というのは、それを演奏する演奏家の中にその作品の大きなイメージが明確になっていないのだと思います。その点、千絵さんは演奏するどの曲も徹底的に掘り下げて追及し、最終的に自分の納得する形で披露します。そのように突き詰められたものは自ずと普遍性を持ちます。またその形は決して閉じたものではなく、その場その場で感じたものも反映させた即興性も兼ね備えている開かれたものなので、とても生き生きとしています。それが感じられる彼女の生のステージはまさに音楽を聴く楽しみに満ちています。

004

さて、今回から馬車道ピアノサロンで始まった平井千絵フランス近代音楽シリーズ、第1回目のプログラムはドビュッシーの前奏曲集第1巻、第2巻からの抜粋、そして間にセヴラックの佳曲を挟んだものでした。セヴラックは事前の告知にあった『水の精と不謹慎な牧神』から『日向で水浴びをする女たち』に変更になりました。

ドビュッシーの曲は多くのピアニストに演奏されていて、みのりもコンサートや録音で何回も聴いてきた慣れ親しんだ曲です。それと比べて千絵さんの演奏は時々意外性の感じられるものでもありました。でもそれは千絵さんが慣例的に他のピアニストがやっていることとは関係なく、譜面から直接感じられるものに忠実に演奏している結果であることは明白だったので、全く納得しうるものでしたし、逆に曲の持つポテンシャルの大きさを示してくれるものだったと思います。

ドビュッシーの前奏曲集は第1巻と第2巻とではその趣きはいささか異にしていて、比較的明快な曲が揃った第1巻に対して第2巻はぼんやりと抽象的に感じられる曲が多く、それに挑む千絵さんの演奏はこれまで聴いてきた彼女の印象とは幾分異なる緊張感も感じるものでした。しかしそれらも隅々まで意識の行き届いた演奏でしたので、やはり千絵さんの魅力が十分感じられるものであったと思います。ドビュッシーと千絵さんとの世界の融合はかなりユニークなもので、それだけでもこのコンサートの意義が感じられました。

_mg_0320

その間に挟まれたセヴラックの曲は、千絵さんがとても親密に感じているこの作曲家の作品であり、実際に聴く人皆もそれがよく分かる多幸感溢れる演奏だったのではないでしょうか。ドビュッシーと比べると明らかなその暖かみとまた独自の即興性溢れた曲を思いのままに具現化した演奏であり、間違いなく千絵さんの十八番であることが認識できたことと思います。

アンコールはセヴラック『休暇の日々から』より「古いオルゴールが聞こえるとき」。短いながら軽快で可憐な演奏は、後半の濃密なドビュシーを聞き終えた皆さんにとってホッとして自然と日常に戻れる時間となったと思います。本当にこういう曲の演奏が千絵さんはとても素晴らしいです。

_mg_0103

なお、このコンサートでは休憩時間にスタッフの手作りのお菓子とお茶、さらに今回はピーロート・ジャパン株式会社のご協力によりワインサービスもありました。どれも皆さんに好評でゆっくりと気を休めていただけたようでした。今後も継続していく予定にしていますので、ぜひコンサートにいらしていただいて、こちらも楽しんでいただきたいと思っています。

次回は3月に開催予定。プログラムはオール・セヴラック特集となります。今回聴くことができなかった『水の精と不謹慎な牧神』も演奏される予定です。次回も音楽を聴く楽しみを十分に感じていただけるものと確信しています。間もなく告知になりますので楽しみに待っていてくださいね!

001