ベル&セバスチャンを初めて知ったのは、当時ロンドンに住んでいたみのりの友達が一時帰国して会ったときでした。「今とっても夢中でグラスゴーまでライブ見に行ったほど!」と興奮して話してくれて、彼女はみのりにとってとても信頼できる友達でしたのでさっそく1stアルバムを買って聴いてみました。

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しかし正直ピンとこなかったことをよく覚えています。なんだか不安定な演奏だし歌声も線が細くて、彼女はこれのどこを良いと感じてるのかなぁと不思議な思いをそのあとずっと引きずりました。

そのあと今度はみのりがパリに3週間旅行することになり、中3日でその友達のいるロンドンにも足を延ばすことにしました。晴れも雨もくっきりと分かれ空気も乾燥しているパリに比べ、ロンドンはいつも雨交じりに曇っていて、フランス風のカフェに入ってサンドイッチを頼んでもパリではどこででも食べられる美味しいものとは天と地ほどの差があってげんなりしました。なるほどこんな鬱屈なところだからああいうイギリスの音楽が生まれるんだなとなんとなく納得するものがありました。ロンドンでは観光地は全くまわらずに、その直前に引っ越しをしていたその友達のために、一緒に家具を選びに郊外にあるIKEAに行ったりしただけなので、なおさら旅の高揚感のようなものは得られませんでした。でも不思議とそれが嫌に感じなかったのは、おそらくみのりは日本でも同じような心持ちでいて、ロンドンでもそれとつながる日常的な感じをもったからのように思います。

そしてパリに帰ってきて「パリスコープ」を買って隅から隅まで見ていたら、なんとその日の夜にベル&セバスチャンのライブがあることがわかりました。場所は新宿歌舞伎町のような地区ピガールにあるシガールというライヴハウス。

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問い合わせてみると当然チケットはソールドアウトでしたが、友達があれほど入れ込んでいる理由がどうしても知りたくて、なんとしてもこのライブを見てみたいと強く思ったのでした。そこで日本でも利用したことがないダフ屋と交渉することに決めました。怪しげな地区の夜で正直びくびくでしたが、言葉も自由でない若い東洋人をダフ屋さんも憐れんでくれたのか、携帯電話で会場内の情報をさぐりながら、今はまだ前座が演奏中でもう少し待てば安くなるから待て、なんて親切にしてくれて、結果定価に近い金額でチケットを手にすることができました。

中に入ってみると前座のバンドが演奏を終えるところでした。それからセッティングを経ていよいよベル&セバスチャンの登場です。みのりのイメージとは違ってパリの観客がシーンとなり、というより始まった演奏がシーンとしなければ聞こえないくらいの小さいギターのカッティングの音から始まったのでした。そしてそこにボーカルの弱々しい声がのり、だんだんメンバーの音が重なっていきました。お世辞にも上手な演奏ではありませんが、皆でお互いの音を丁寧に聴きながら音を出しているのがよくわかるあたたかい音楽でした。その曲はその後シングルでリリースされた「This is just a modern rock song」でしたが、初めてこの曲で彼らの演奏に触れることができたのはみのりにとって幸運だったと思います。この曲の演奏こそが彼らの音楽の魅力がもっともよく出ていると思われて、それによってこれまでもやもやとしていた彼らへの印象が一気に取り払われてぐっと魅かれているのがわかりました。そしてそれは最後まで続き、多幸感につつまれたままライブは終わりました。みのりはすっかり興奮してしまって、あがった感情を誰かと共有したくなり、すぐにロンドンの友達に電話していかに彼らのライブが素晴らしかったを語りまくったのでした。

勝手なものでそれからは、弱々しいスチュアート・マードックの佇まいは優しいものと感じ、すべての曲にあの空気感を感じたりもしたのですが、みのりはとりわけ美しい人形のようなイゾベル・キャンベルに魅かれました。彼女はパリでのライブではフランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」も歌って、チェロを弾く姿だけでなく歌う姿や声もひたすらチャーミングでみのりはすっかりイゾベルに恋してしまったのでした。

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その後彼らはやっと念願の来日公演も行い、変わらない魅力あるステージを見せてくれたのですが、その時にはあの可憐なイゾベルの容貌は大人っぽく変わっていて、それがバンドの成長とも重なって少しさみしい思いをしたのも確かです。不安定だけれど大事なものをそーっと注意深く触れるような演奏に彼らの美点を見出していたので、それがいつまでも続くものでないことは覚悟していたのですが、やはりそれが実際に目の前に現れて持った感情でした。そしてその後イゾベルがバンドを去ってしまった時点でみのりの興味は大きく減じました。

ベル&セバスチャンはその後も順調に活動を続けて今に至るようです。イゾベルがいなくなっても、意外にもサラがその穴をしっかりと埋めていて、音楽的な問題はあまりなかったかもしれません。

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しかしやはりみのりにとってのベル&セバスチャンは、成長しきってないスチュワート・マードックとイゾベル・キャンベルの存在に象徴されていたので、そのいずれもが失われた時点で終わったのだと思います。

みのりは今でもかつて好きだったベル&セバスチャンの作品を聴きながら、ある時点までのきらきらした彼らの姿に思いを馳せて少し胸が締められる感じがします。