みのりが洋楽を聴き始めたのは中学生の頃でした。当時は80年代でシンセサイザーのキラキラした音がちりばめられたポップスがチャートを賑わしていて、今から振り返ってみてもまさにバブルな時代だったなぁと思います。耳心地のよくうすっぺらい音楽を次から次へと消費しまくっていて、別にそのこと自体悪いことだとみのりは思っていませんが、身を削って音楽を作っているアーティストにとってはそれこそ躁状態でなければ耐えられない時代だったかもしれないなぁとも思ったりします。

そんな時代のみのりのお気に入りのアーティストはスクリッティ・ポリッティでした。当時毎週チェックしていたビルボードのチャートの曲の中でもひときわ耳をひくデジタルポップでしたが、それはポップなメロディはもちろんのこと、彼らがとことんタイトなデジタルな音にこだわりまくり、また中心人物のグリーン・ガートサイドのやさ男系の歌声もデジタルな音との親和性が高く、彼の美しいルックスとともに多くの人を魅了するに十分な条件がそろっていたからだと言えるでしょう。

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きっかけはシングル曲「パーフェクト・ウェイ」でした。その後マイルス・デイヴィスも頻繁にカヴァーすることになるこの曲はみのりにとってとても斬新でしたが、それは当時の誰にとっても同感だったようでチャート上位まで一気に駆け上りました。

この曲が収録されたアルバム「キューピット&サイケ85」も、レゲエやアレサ・フランクリンへのオマージュなど恐らくはグリーンの幅広い音楽的嗜好性をベースにデヴィッド・ギャムソンによるデジタルサウンドが全面的に展開された作品が集められ、それらは他には到達できないレベルにあり、一躍時代の音になったと思います。しかし一度はアナウンスされたライヴツアーも結局キャンセルされ、その後最近まで行われなかったのは恐らくグリーンのもつ繊細な感性がこの時代にマッチしなかったからではないかと思っています。

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そこから数年後に発表されたアルバム「プロヴィジョン」は前作の延長線上にある音でしたが無駄なものをとことんそぎ落としたものとなり、またザップのロジャー・トラウトマンのヴォコーダー・ヴォーカルやマーカス・ミラーのタイトなベース、そしてマイルス・デイヴィスのメロディアスなミュートプレイなども含まれていて、まちがいなく傑作と言うべきものでしたが、それは大方の期待を上回るものではなかったようで、あまり注目されることがなかったようです。しかし今聴きなおしてみても「キューピット&サイケ85」よりも「プロヴィジョン」の方が時代を超えた普遍性を持っているとみのりは考えています。

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その後スクリッティ・ポリッティはほとんど活動休止状態となるのですが、11年後の1999年にアルバムをいきなり発表します。それが「アノミー&ボノミー」です。

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しかしこのアルバムはプロモーションもあまりされずまったく注目されることもなかった作品でした。ストレートなバンドサウンドやラップが全面的にフィーチャーされるなどヒップホップ的な要素が盛り込まれた曲が数多く収録されたこのアルバムは、従来のスクリッティ・ポリッティのデジタル・ポップのイメージとは大きく異なっており、特にヒップホップ系の音は今でこそ巷にあふれていますが当時はまだまだ一般的とは言えず、それがポップミュージックと融合した音楽は特異であったのでしょう。

しかし表面的な音楽スタイルは異なっていてもこのアルバムはやはりそれまでのスクリッティ・ポリッティの個性といったものが引き継がれているとみのりは思います。

それはまず広く黒人音楽に対するグリーンの嗜好性が色濃く出ているということ。そしてこのアルバムではプロデュースに徹しているデヴィッド・ギャムソンによる音のプロダクションが相変わらずハイブリッドであるということ。特にデヴィッドのコネクションでレコーディングに参加したであろうベースのミシェル・ンデゲオチェロやギターのウェンディ・メルヴォワン(言うまでもなく元プリンス&ザ・レヴォリューションのメンバーです)の存在は重要であったと思います。また年月を経てもまったく衰えていないグリーンの声とメロディの存在がなによりそれまでとの一貫性を持っています。

ですから、このアルバムはそれまでの彼らのアルバムと比較しても全く遜色のないどころか、それ以上の到達点を示したものだと言えるものだとみのりは考えます。そして一般的にも今こそ受け入れられる土壌が整い、きっかけさえあれば再評価されるのではないかと思っています。

その後2006年に古巣のラフ・トレードからスクリッティ・ポリッティはアルバムをリリースしますが、この時はデヴィッド・ギャムソンの姿はありませんでした。同年に来日公演もあり、往年の名曲「ウッド・ビーズ」なども演奏されましたが、やはりみのりにとってのスクリッティ・ポリッティはグリーンとデヴィッドのコンビだったなと思いました。

それから約10年。そろそろまたスクリッティ・ポリッティに活動してもらいたいと思っていますが、できればグリーンとデヴィッドが再びタッグを組んでくれないかなぁとみのりは儚い期待を持っています。