アルベール・ラモリス監督が撮った映画で最もポピュラーなものは「赤い風船」でしょう。

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少年と彼になついた風船との友情を描いた心温まるファンタジーは、使われたセリフがわずかにもかかわらずはるかに雄弁にその豊かな世界を語っていて、美しいさまざまな色彩とともに見た人すべてをうっとりさせるものでした。いわさきちひろさんもこの作品をもとに一冊の美しい絵本を作っています。

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風船のように空を飛ぶということがその後のラモリスの主題になっています。次作「素晴らしい風船旅行」では「ヘリヴィジョン」というヘリコプターによる空中撮影システムを自ら開発して撮影していますが、この映画ではとりあえずのストーリーは存在するもののそれ自体は取るに足らないもので、映画のほとんどはひたすらふわふわとゆっくり浮遊する風船の気球からみられるさまざまな印象的な情景からできています。ラモリスのもつイメージがもっとも純粋な形で現れたものがこの映画であると言ってよいのではないでしょうか。まさに映像詩という言葉がふさわしい美しい作品です。

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しかしラモリスは次の作品ではそれまでとはまったく趣の異なる軽妙なコメディ映画を撮りました。それが今回お話する「フィフィ大空をゆく」です。

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コソ泥のフィフィがある屋敷に忍び込んで時計を奪うところから物語が始まります。ちょうどそこへ時計の持ち主が帰ってきて彼に気づき捕まえようと追いかけます。フィフィは捕まらないように逃げているところで偶然サーカス団に紛れ込んでしまうのですが、そこでサーカスの団長から空飛ぶ翼をつけられてしまいます。最初はサーカス団に入ることを渋るフィフィですがサーカス団の花形娘を一目見るやすっかり気に入り、結局そこに居つくことになります。
ある時、白いワンピースを着て空を飛んでいるとそれを見た人々はフィフィをみな天使と勘違いします。そして彼はそれをいいことにあちらこちらで盗みなどの悪さをするのですが、結局はばれて追われることとなり・・・。

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ストーリーはたわいもないものですが、とても丁寧に練られてまとまっているため最後まで飽きずに見ることができます。しかしただの良質なコメディに終わっていないところがラモリスたる所以、つまりここでもヘリヴィジョンを使った空中撮影による独特な浮遊感のある映像があちらこちらに使われていて、それがこの映画を特別なものにしているのです。つまりこの映画でも「空を飛ぶ」ということが重要なモチーフになっていて、またそれ以外でも物語を構成するひとつひとつの要素に同質のやさしさともいうべきラモリスの映画の特徴が明確に現れています。

みのりはこの映画を20年以上前に偶然NHKの放映で見ることができました。それ以前からラモリスの映画が大好きだったので、ビデオに録って繰り返しみたものです。しかしこの映画はビデオもDVDもリリースされていませんでした。数年前に「赤い風船」とそれに先立つ作品「白い馬」はデジタルリマスターされ映画館で上映されてDVD化もされたので、そのタイミングでこれも出るかと思ったのですがこの映画はおろか「素晴らしい風船旅行」さえもDVD化されませんでした。しかし最近スペインでラモリスの主要作品を2枚のディスクに収録したDVDがリリースされていたことを知り、みのりはすぐに購入しました。そこにはこの「フィフィ大空をゆく」も収録されていました。恐れていたとおり画質も粗雑なものでしたが、まずはDVDという形で見たいときに見ることができるようになったことを喜びたいと思います。

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みのりは最近「ベイマックス」というとてもヒットした映画を見て、そのとてもよく計算された作りに一部感心もしたのですが、やはり結局は過剰な刺激と情報に満ちていて見るものの想像力を必要とするものは皆無でしたのでさみしくも思いました。あふれるようなあたたかみといった意味でははるかにラモリスの映画の方が豊饒な作品です。しかしそれを感じるためには多少の気持ちの余裕といったものが必要なのでしょう。そのようなラモリスの映画が忘れられているということはこの世の中がそれだけ余裕のない世界だということになります。もっと余裕のある世界にもどった方がいいのではないかとみのりは考えたりするのです。